ブックタイトルtayori35

ページ
23/32

このページは tayori35 の電子ブックに掲載されている23ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

tayori35

2015. Autumn 21「豊かに学び、豊かに表現できる人に!」 工学部英語教育センター教授杉すぎ 村むら 寛ひろ 子こ先生 私の前任校は岡山県立大学で、7年間岡山に住んでいました。その間、通勤ではJR吉備線のお世話になっていました。二両編成の列車は、岡山市内からゆっくりと抜け出すと、田畑を縫うように進み、総社という町まで毎朝私を運んでくれました。電化されていなかったため、「電車に乗る」と言うのは少しためらいがありましたが、車窓からの眺めも通勤時の楽しみの一つでした。しかし、4月から一転、私の周囲の環境は大きく変わりました。今では、人で活気に満ちた駅前や、白い石畳がまぶしい大通りが、私の愛すべき新しい通勤風景となったのです。 ご縁をいただき、今春大阪電気通信大学に着任してから、岡山の生活で身についた習慣が時々ちょっとした失敗を引き起こすこともありましたが、大学では同僚や事務の方々の助けを得て、ようやく最初のセメスターを無事に終えることができました。ひたすら感謝あるのみです。また主に1年生の英語を担当していますが、教室で「同じ年度に『入学』した1年生同士だね」と話すと、学生たちはとてもフレンドリーに接してくれました。そのため、岡山の学生たちを思い出して、寂しくなることもありませんでした。新天地で、このようにすばらしい学生たちに巡り会えたこともまた感謝あるのみ。そして、この出会いに報いるためにも、これまでの経験と持てる知識を活かし、微力ながらより一層教育に尽くしたいとあらためて思っています。 専門は19世紀を中心とする英国の小説で、特にシャーロット・ブロンテ(Charlotte Bronte)とエミリー・ブロンテ(Emily Bronte)姉妹の小説を研究しています。英国のみならず、世界には思わず「すごい」と唸らされる文学作品が豊かに存在します。しかし、教室で「『嵐が丘』(Wuthering Heights)を読んだことがあるか」ではなく、少し控えめに「『嵐が丘』を知っているか」と問うても、肯定的な返答を期待することは、昨今だんだん難しくなってきました。その理由は若者の活字離れという一般的な現象に帰するのでしょうが、仮に読書を楽しみとする者でも19世紀は大昔で、その頃に書かれた小説を手に取ってみても、何も得るものなどないと思っているからではないかと思います。 しかし、たとえ文学を専門とせずとも、大学を卒業するまでに、何か一冊でも古今東西の傑作に挑み、文学作品の中にある普遍性に浸ってほしいと、これまで学生たちには伝えてきました。人との出会いが自分の視野を拡げるとよく言われますが、出会いは多いようで、その実限られています。ましてや、自分の思いを打ち明け、議論し合うまでの仲になるとなれば、もっと限られてくるでしょう。それゆえ、生きた人間と同じように泣き、笑い、怒る人物たちがいる文学作品に触れることは、そのような出会いを通した「他者」との対話を増やす貴重な機会でもあるのです。 大学では、専門的知識を習得し、深めていくことが最も大切ですが、同時に社会に出てから、どのような場面でも鍵となる「思考力」「判断力」そして、昨今よく聞かれる「人間力」を磨くこともまた同様に重要です。文学にはこのような意味で自らを成長させてくれる「何か」があると私は思っています。長い人生の中で、おそらく最後の教育機関である大学。学生たちには、ここで広く興味のアンテナを張り巡らし、「豊かに学び」、そして学んだことを「豊かに表現」できるような人になってほしいと願っています。プロフィール奈良女子大学文学部英語英米文学科 卒業奈良女子大学大学院文学研究科  英文学専攻博士前期課程 修了奈良女子大学大学院人間文化研究科  比較文化学専攻博士後期課程単位取得 退学立命館大学言語教育センター講師、岡山県立大学保健福祉 学部看護学科准教授を経て、同教授